ステルスマーケティングの基礎知識

ステマの基本

ステマとは何か

ステマとは、ステルスマーケティング(stealth marketing)のことで、いわゆる「やらせ」「さくら」と呼ばれる販売手法のことです。

販売業者(および関係者)が消費者を装って、好意的な口コミを増やすといった手法が一般的です。

ステマが注目される理由

インターネットを使った商取引が盛んになるにつれてステルスマーケティングが注目されるようになりました。

消費者はネットで何かを購入するときにレビューサイトの口コミを重視します。その一方で、レビューサイトの口コミは匿名で投稿できるようになっています。事業者にとっては、消費者を装って自社に有利な口コミを増やす条件が整っているのです。

ステマは広まっているのか

レビューサイトでは、ステマを疑わせる書き込みが溢れていますので、蔓延していることは間違いありません。ただし、どれが本当にステマなのかを特定するのは容易ではありません。

一つの参考として、口コミサイトのトラベルJPを運営するベンチャーリパブリックのケースを上げましょう。

同社が上場していた頃、投資家への決算説明会でステマ問題に触れたことがありました。自社の口コミレビューを厳しくチェックした結果、ステマを疑わせる書き込みが2割程度だったと語っていました。現在は対策が採られているので減っていると考えられますが、蔓延していることに間違いありません。

ステマの効果はあるのか

ステマ行為にはどの程度の効果があるのかについては、確定できる数字はありません。ただし、消費者がどの程度、口コミレビューを重視しているのかについてのデータがあります。

インターネット白書2012年によると、オンラインシッピングの情報源として、「クチコミサイト、レビューサイト」を挙げる人が 26.3% でトップでした。2番目の企業サイト 21.1% を上回っています。

これが意味するのは、「お金を稼ごうとする業者の説明よりも、同じ立場の一般消費者が伝える体験談を信じる」という当たり前の事実です。口コミサイトの内容が売れ行きを左右する時代になっています。 ネット上の取引に限るなら、広告よりもステマの方が効果の高い可能性があります。

ステマは違法ではないのか(法的規制)

日本

現在の日本にはステマ行為を直接取り締まる法律はありません。

ステマが抵触する可能性が高いと思われる法律には、「不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)」があります。そこでは、「優良誤認表示」「有利誤認表示」が禁止事項として挙げられていますが、これらは「実際より良く見せかけること」を禁止するものです。

業者が一般消費者になりすますことは禁止されていないため、注意深く事実だけ語っていれば、違法とは言えないのが現状です。(ステマが問題視されている以上、いずれ「なりすまし」行為そのものが不当表示になる可能性もあります)

ちなみに、ステマ投稿は口コミサイトの価値を損なうものですから、サイト運営者が法的措置をとることは可能です。

米国

米国ではネットの本場だけあって、巧妙かつ大規模なステルスマーケティングが行われてきました。そのため、FTC(連邦取引委員会)が規制を強めることになり、2009年にはガイドラインが改定され、サービス推薦のルールが明文化されました。

それによると、一般個人がブログや掲示板で商品を勧めるときでも、利害関係については公表しなくてはなりません。商品を無償提供されていたり、アフィリエイトであったり、該当企業の従業員(関係者)である場合には、その事実を明示する義務があります。

このガイドラインには法的拘束力がないものの、これに違反すると「欺瞞的な行為または慣行」として法律違反になる可能性が高いとみなされます。

ステマの種類

通常のステマ

アマゾン、食べログ、カカクコムなど、口コミーレビュー機能をもった有名サイトにおいて、関係者が好意的なレビューを投稿する行為。

レビュー機能をもったサイトはあらゆる分野にあり、病院、歯科医、美容院に至るまで、あらゆるサービス・商品がユーザーのレビューに晒されています。

逆ステマ

上記とは逆に、批判的なレビューを書き込む行為。競合相手の評判を下げることで自社の売上を伸ばすことを目的とします。

小規模な事業者は逆ステマ被害で廃業に追い込まれることもあり、非常に悪質な行為と考えられます。

割込みステマ

有名な商品・サービスの口コミレビューにおいて、代替できる選択肢として自社商品をさりげなくアピールする行為。競合商品から自社に誘導することを目的とします。

また、格上のブランドに割込みステマを行うことで、あたかも同列の競争相手かのような印象を演出してブランド力を上げる狙いでも使われます。

ステマへの対策

口コミレビューサイト(プラットフォーム側)のステマ対策

書き込まれたレビューを一律に扱わないことが対策の主流です。信頼性の高いレビューを見やすい場所に配置することで、ステマが疑われるレビューの影響力を下げることができます。

信頼性を判断する基準には以下のようなものがあります。

個人情報の提供
個人を特定できる情報をプラットフォーム側に提供していること。携帯番号やクレジットカードの登録、プラットフォームを通した購入履歴など。
IDの活動履歴
投稿した口コミレビューが多いこと。長期にわたって継続的に同一IDでのログイン履歴があることなど。
レビューの支持
他のユーザーがレビューを評価する機能をつける。役に立つレビューには投票が集まる。

口コミを行うユーザー(消費者)の動向

口コミレビューがステマである可能性を多くの人が理解しています。レビューを鵜呑みにする人は少なくなっていますので、ネットリテラシーは相応に高くなっています。

不自然なまでに好意的なレビューが集まった商品には、他のユーザーから厳しいレビューが集まりやすくなってきています。口コミレビューサイト全体の信頼性は確保されていると考えられます。

事業者の対策は必須

上記で書いたように、プラットフォーム側の対策およびユーザーのリテラシー向上によって、ステマ行為は簡単なマーケティングではなくなってきました。しかし、巧妙なステマはむしろ影響力を持つことになります。

そのような中で、一部の事業者がステマを行うことにより、他の事業者は相応の不利益を被っています。

競合商品・サービスがステマ行為を行っていれば、その商品・サービスに過大な評価が集まり、売上を伸ばすことになります。結果として自社の売上が消えていくことになります。

また、競合相手からの逆ステマにより、自社商品・サービスが不当に評価され、事業の存続に関わるケースも出てきています。

ネットでビジネスを行う事業者にとって、ステマへの対応は避けることができません。口コミサイトに書き込まれた不当なレビューを放置せず、正しい情報を消費者に伝えなくてはなりません。